プロンプトエンジニアリングの基礎
AIと対話する際、私たちが入力する指示文を「プロンプト」と呼びます。プロンプトエンジニアリングとは、AIからより正確で有用な回答を引き出すために指示文を最適化する技術です。
プロンプトを書く最大の目的は、「AIとの認識のズレをなくし、期待通りの出力を得るため」にあります。AIは非常に強力なツールですが、人間の「言わなくてもわかるだろう」という文脈を読み取るのは得意ではありません。
そのため、アウトプットの期待値を明確に設定し、用途(要約、生成、変換など)に応じて情報を整理して伝える必要があります。
例えば、単に「メールを書いて」と頼むのではなく、「新製品の案内を、既存顧客に向けて、丁寧なトーンで、300文字以内で書いて」と制約を加えると、実用的な回答が得られます。
このように、AIを特定の役割(ペルソナ)として定義し、具体的なタスクを依頼する姿勢が基礎となります。
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用語解説
プロンプトエンジニアリングを学ぶ上で、まず押さえておきたい基本用語を整理します。
用語 |
定義 |
|---|---|
プロンプト |
AIに対する入力全体のこと。指示、背景、データなどを含みます。 |
インストラクション |
「〜してください」という具体的な命令部分。 |
コンテクスト |
AIが回答を生成するために必要な背景情報や文脈。 |
モデル温度 (Temperature) |
出力の「ランダム性」を調整するパラメータ。値が低いほど事実に基づいた堅実な回答になり、高いほどクリエイティブな回答になります。 |
トークン |
AIがテキストを処理する際の最小単位。 |
Few-shotプロンプティング |
AIにいくつか(Few)の具体例(Shot)を提示して、回答のパターンを学習させる手法。 |
ゼロショット |
事前知識や例示を与えず、指示のみで回答を求める手法。 |
目的とペルソナの設定
精度の高い回答を得るためには、「誰が(ペルソナ)」「何のために(目的)」出力するのかを明確にすることが不可欠です。
AIに対して「あなたはプロのマーケティングコンサルタントです」と役割(ペルソナ)を与えると、AIはその専門領域でよく使われる語彙や思考プロセスを優先的に採用するようになります。
対象読者が「初心者」なのか「専門家」なのかを伝えるだけでも、説明の詳しさや専門用語の使用頻度が劇的に変わります。
用途別の具体例を見てみましょう。
- 要約: 「以下の議事録を、決定事項と宿題事項に分けて3行でまとめてください」
- 生成: 「20代女性向けの、オーガニック化粧品を紹介するSNS投稿案を3つ作成してください」
- 変換: 「この技術仕様書の内容を、中学2年生でもわかるような平易な言葉に書き換えてください」
このように、出口の形(フォーマット)を指定するのも、目的達成には欠かせない要素です。
モデルの理解
最後に重要なのが、使用しているAIモデルの特性を理解することです。現在、GPT-5.2やGemini2.5Pro、Opus4.5など多くのモデルが存在しますが、それぞれに「得意な言語」「推論能力の高さ」「一度に扱える情報量(コンテキストウィンドウ)」が異なります。
最新のモデルほど複雑な指示を理解できますが、一方で計算コストや応答速度のバランスを考える必要もあります。また、AIは時として「もっともらしい嘘(ハルシネーション)」をつく性質があることを忘れてはいけません。
モデルの特性を理解し、一度のプロンプトで完璧を目指すのではなく、AIの回答に対して「もう少し具体的に」「この部分は修正して」と対話を重ねる(反復改善する)のが、プロンプトエンジニアリングの本質といえるでしょう。
プロンプトの書き方のコツ
AI(チャットGPTやGeminiなど)から期待通りの回答を得るためには、「なんとなく」指示を出すのではなく、AIが理解しやすい「構造」で伝えるのが重要です。
本記事では、今日から使える実践的なプロンプトの書き方を段階的に解説します。
目的と制約の明確化
プロンプト作成の第一歩は、AIに「何をさせたいか(目的)」と「守ってほしいルール(制約)」をセットで伝えることです。
AIは指示があいまいだと、一般的な回答に終始してしまいます。以下の要素を明示しましょう。
-
目的
「あなたはプロの編集者です。ブログ記事の校正をしてください」のように、役割とゴールを定義します。 -
制約
字数制限、語り口(敬語、だ・である調)、ターゲット層(小学生向け、専門家向け)を指定します。 -
禁止事項
「専門用語は使わないでください」「〜という言葉は避けてください」といった「やらないこと」の指示も精度向上に直結します。
3つのポイントを箇条書きで並べるだけで、回答のズレは劇的に減少します。
指示構造
効果的なプロンプトには、情報の「構造化」が不可欠です。深津式プロンプトにも通じるテクニックとして、指示を以下の3つのフェーズに分割して記述するのをおすすめします。
-
前提(背景情報の提示)
「現在、新商品のWebマーケティング戦略を練っています。ターゲットは30代の働く女性です」といった背景を伝えます。 -
処理(具体的なタスク)
「提示した背景に基づき、キャッチコピーを5つ考案してください」と、具体的なアクションを指示します。 -
出力(形式の指定)
「表形式で出力してください」「見出し、本文、ハッシュタグの順で並べてください」と、受け取りたい形を指定します。
このように情報をセクションごとに段落化すると、AIは情報の優先順位を正しく理解し、論理的な回答を生成できるようになります。
例文提示
ここでは、汎用的に使える基本テンプレートと、用途別の具体的な例文を紹介します。
【基本テンプレート】
指示
[役割]として、[対象物]を[目的]のために作成してください。
制約
・文字数は[数値]以内
・トーンは[指定]
・[キーワード]を必ず含める
出力形式
[形式の指定:箇条書き/表/Markdownなど]【用途別例文】
-
要約
「以下の文章を、重要なポイント3点に絞って、箇条書きで要約してください。専門用語には補足説明を添えてください」 -
コード生成
「PythonでCSVファイルを読み込み、特定列の平均値を算出するコードを書いてください。各行に日本語のコメントを入れてください」 -
記事構成
「『テレワークの効率化』というテーマで、SEOを意識した記事構成案(h2、 h3見出し)を作成してください。読者の悩みから解決策への流れを重視してください」
また、日本語で意図が伝わりにくい複雑なロジックを組む場合は、英語でプロンプトを書く(または英訳させてから実行する)と、AIのモデル性能をより引き出しやすくなる場合があります。
質問の工夫(フォローアップ)
一度のプロンプトで100点の回答が出ることは稀です。出力をさらに磨き上げる(リファインする)ためのフォローアップが重要です。
- 深掘り質問: 「今の回答の2点目について、具体的な事例を3つ挙げてください」
- 逆質問の誘導: プロンプトの最後に「不足している情報があれば、私に質問してください」と付け加えると、AIが精度を高めるために必要な情報を自ら求めてくるようになります。
- フィードバック: 「もっと親しみやすい表現に変えて」「ビジネス文書として堅苦しくして」と逐次修正をかけることで、理想の回答に近づけます。
AIとの対話は、まさに「部下への指示」と同じです。明確な構造と丁寧なフィードバックを心がけることで、AIはあなたの最高のパートナーへと進化します。
テンプレートと「深津式」
プロンプトエンジニアリングにおける「深津式」とは、note株式会社CXOの深津貴之氏が提唱した、AIの役割や制約を明確に定義するフレームワークです。
この手法の真髄は、単にテンプレートを埋めることではなく、「大きなタスクを小さなステップに分解し、それぞれの出力を次のプロンプトの入力として再利用する」といった設計思想にあります。
プロンプトを「関数」として定義し、必要な変数(入力データ)だけを入れ替える運用を行うため、一貫したクオリティの出力を得られます。
基本テンプレート
まずは、どのようなタスクにも対応できる基本の「構造化テンプレート」を身につけましょう。以下の4つのポイントをおさえましょう。
-
指示
「あなたはプロの編集者です」など、AIの役割と目的を定義する。 -
制約事項
文字数、トーン、禁止事項など、絶対に守るべきルール。 -
入力データ
要約や翻訳の対象となる具体的なテキスト。 -
出力フォーマット
Markdown形式、箇条書き、JSONなど、期待する形式。
このフォーマットを固定すると、指示のブレがなくなり、再利用可能な「型」が完成します。
深津式の考え方
深津式の核心は、複雑なタスクを一度に解決しようとしない「プロンプト分割」にあります。
例えば、「1万文字の資料を読み込み、3つの重要課題を抽出して、それぞれに対する解決策を3000文字の記事にする」というタスクを考えます。これを一つのプロンプトで行うと、AIは細部を省略しがちです。
-
ステップ1(抽出)
資料から課題を抽出する。 -
ステップ2(深掘り)
抽出された課題1つずつに対して詳細な分析を行う。 -
ステップ3(統合)
各分析を組み合わせて最終的な記事を構成する。
このように、大きな指示を「部品(コンポーネント)」に分け、一つひとつの出力を検証しながら進めると、論理的なアウトプットができます。
カスタマイズ例
基本テンプレートは、用途に応じて瞬時にカスタマイズできます。
-
ペルソナの変換
専門家向けの解説なら「大学教授」というロールを与え、初心者向けなら「親しみやすい家庭教師」という役割を制約事項に追加します。 -
言語の変換
英語で出力させたい場合は、出力フォーマットに「Please output in English.」と加えるだけでなく、「思考プロセスは日本語、最終結果だけを英語」と指示を分けると、論理性を保ったまま高品質な翻訳・生成が行えます。
上記のテンプレートと分割手法を組み合わせると、プロンプトは「使い捨ての指示」から「資産としてのツール」へと進化するのです。
英語プロンプトについて
AIモデル、特に大規模言語モデル(LLM)の多くは、膨大な英語データを学習の主軸としています。そのため、英語でプロンプトを入力するのは、AIの本来の性能を引き出す上で非常に有効です。
英語プロンプトの最大の利点は、出力の「論理性」と「精度」の向上です。日本語に比べて構造的な理解が深いため、複雑な指示でも意図が正確に伝わりやすくなります。
一方で、文化的な文脈のズレや、微妙なニュアンスの欠落といった注意点もありますが、これらは適切な「表現の選択」と「型(テンプレート)」の活用で解決できます。
英語での注意点
英語で指示を出す際、日本語をそのまま直訳すると、意図しない解釈を招く恐れがあります。
-
直訳による意味の変化
例えば「適当に(Appropriately)」は、文脈によって「いい加減に」とも「適切に」とも取れます。AIには In a professional manner(専門的な方法で)など、具体的で誤解のない表現を選びましょう。 -
トーンの指定
Helpful and concise(役立ち、簡潔に)や Academic(学術的)など、形容詞で明確に指定してください。 -
簡潔さ(Conciseness)
英語は結論から述べる言語です。回りくどい表現は避け、Act as a professional writer(プロのライターとして振る舞ってください)のように、役割と目的を伝えましょう。
翻訳テンプレ
日本語の指示を英語に翻訳して使用する場合、以下のテンプレートを活用すると精度が安定します。
【翻訳・命令用テンプレート例】
"I want you to [Task]. Please follow these constraints: [Constraints]. Use a [Tone] tone. Output should be in [Language]."精度を落とさないコツは、日本語を一度「箇条書き」で整理してから翻訳にかけるのがポイントです。主語と述語を明確にしたシンプルな日本語に変換してから英語にすると、翻訳ミスによる指示のブレを防げます。
英語で訓練するメリット
AIが学習したデータ量は、英語が日本語を圧倒的に上回ります。これにより、英語での出力は語彙が豊富で、多角的な視点を含んだ回答が得られやすいというメリットがあります。
日本語と英語の選択基準
-
英語を選択すべき時
プログラミング、最新の学術調査、ビジネスでの壁打ち。 -
日本語を選択すべき時
日本独自の商習慣、敬語の微調整、日本のトレンド調査。
基本は英語で思考の骨組みを作り、最終的なアウトプットの調整に日本語を使うといった「使い分け」が、AI活用の最適解と言えるでしょう。
プロンプト作成の実践ステップ
AI(生成AI)を業務や創作のパートナーとして最大限に活用するためには、単に指示を出すだけでなく、精度を高めるための「型」を理解するのが重要です。望み通りの出力を得るためのプロンプト作成は、一度きりの命令ではなく、段階的なプロセスとして捉える必要があります。
本記事では、ゴール設定からテンプレート化まで、プロンプト精度を劇的に向上させる実践的な3つのステップを解説します。
ステップ1:ゴール設定
プロンプト作成において、最も重要でありながら見落とされがちなのが「ゴール設定」です。AIに何をさせるかを決める前に、以下の3つの要素を整理しましょう。
-
出力目的の明確化
「何を作りたいか」だけでなく、「その出力を使って何を達成したいか」を定義します。例えば「メールの代筆」であれば、単なる返信なのか、アポイントの獲得なのかによって、AIが選ぶべき言葉のトーンが変わるのです。 -
ターゲット(ペルソナ)の設定
「誰に向けた出力か」を具体的に伝えます。専門家向けであれば専門用語を許容し、初心者向けであれば平易な表現を求めるなど、受け手に合わせた調整が必要です。 -
品質指標(KPI)の整理
「良い出力」とは具体的にどのような状態かを言語化します。「文字数は500文字以内」「箇条書きを3つ以上含む」「結論から述べる」といった制約が、品質を担保するガイドラインになります。
この土台がしっかりしているほど、後のステップでのブレが少なくなるのです。
ステップ2:初稿生成
ゴールが定まったら、実際にプロンプトの初稿(ドラフト)を作成します。ここでは、AIが迷わないための「構造化」を意識しましょう。
初回プロンプト作成のポイントは、「命令・背景・制約・入力・出力形式」を明確に分ける点です。例えば、「深津式プロンプト」や「ゴールシークプロンプト」のような既存のフレームワークを参考に、以下の項目を盛り込みます。
-
役割の付与
「あなたは熟練のマーケターです」といった役割(ロール)を与える。 -
文脈の提供
なぜこのタスクが必要なのかという背景情報を伝える。 -
具体的な指示
具体的なタスクを一つずつ簡潔に記述する。
チェックポイントとして、「指示に曖昧さはないか」「前提条件をAIに丸投げしていないか」を確認してください。一度に多くの指示を詰め込みすぎず、まずは基準となる出力を引き出すのを目指します。
ステップ3:検証と改善
初稿から得られた回答が、最初から100点満点であることは稀です。ここからがプロンプト作成の醍醐味である「改善」のフェーズです。
まず、得られた回答をステップ1で決めた「品質指標」に照らし合わせて評価します。
- 不足している要素は何か?
- 不要な表現(AI特有の言い回しなど)はないか?
- 論理構成に不自然な点はないか?
改善の際は、一度にすべての指示を書き換えるのではなく、一つずつ条件を追加・修正するのがコツです。
例えば、「もう少し親しみやすい表現にして」といった抽象的な修正指示ではなく、「感嘆符を適度に使用し、語尾は〜ですね、という形にしてください」と具体化すると、AIはより正確に意図を汲み取ります。
「出力→評価→プロンプト修正」のサイクルを2〜3回繰り返すと、実用的なプロンプトができます。最終的に安定した品質が得られたら、その指示文を「テンプレート」として保存しましょう。
このプロセスを経ると、誰が使っても高いパフォーマンスを発揮する武器へと変わります。
よくある質問(Q&A)
Q.テンプレートを使っても失敗する理由は?
A.テンプレートは便利ですが、「期待値と制約のミスマッチ」が失敗の主な原因です。AIは文脈を補完する性質があるため、出力形式だけを指定して「背景」や「具体的な制約」が欠けていると、意図しない回答が生成されます。
まずはプロンプトの基本構造ガイドを確認し、情報の解像度を高めてみてください。
Q.出力が長すぎる・短すぎるときは?
A.出力のボリュームが安定しない場合は、プロンプト内で「100文字以内で」「箇条書き3つで」といった具体的な字数・項目数の制約を設けるのが有効です。
また、情報過多な場合は「要約して」、不足している場合は「詳細をステップバイステップで説明して」と明記すると、AIが優先すべき情報を取得しやすくなります。
Q.同じプロンプトで結果が変わるのはなぜ?
A.AIには「温度感(Temperature)」と呼ばれるランダム性が備わっていて、同じ入力でも毎回異なる計算経路を通るからです。
また、直前の会話履歴(コンテキスト)の有無も結果に影響します。常に一定の質を保ちたい場合は、Thinking Machines Labの論文を参考に、条件設定をより厳密に行うのが近道です。
Q.テンプレートはどこまで使い回せる?
A.AIの学習データ量は英語が圧倒的に多いため、最新技術や学術的な内容を深く掘り下げたい場合は英語が有利に働くことがあります。
しかし、一般的な実務や日常的な依頼であれば、日本語で「論理的に明確な指示」を出す方がミスを防げます。目的や難易度に合わせて英語プロンプトの使い分け方を検討してみましょう。
まとめ
ここまで、プロンプトエンジニアリングの基本から実践的なコツ、そして具体的なステップについて解説してきました。AIを使いこなすのは、これからの時代のビジネスパーソンにとって必須のスキルといえるでしょう。
最後に、この記事で紹介した3つのポイントを振り返ります。
-
目的とペルソナを明確にする
「誰が」「何のために」出力するかを詳細に指定すると、AIの回答の精度は向上します。抽象的な言葉を避け、具体的な役割や背景を伝えるのが「書き方」の基本です。 -
テンプレートを「自分なり」に活用する
「深津式」などのテンプレートは非常に便利ですが、あくまで土台です。出力の検証と改善を繰り返し、例文(Few-shot)の提示や制約条件の追加を通じて、自分専用の型へとブラッシュアップしていきましょう。 -
対話を通じて最適化する
一度の質問で完璧な回答を求めず、AIからの回答に対して追加で「質問」や「修正指示」を重ねるステップバイステップの意識が大切です。AIの思考プロセスを理解し、対話を楽しみながら活用するのが上達の近道です。
プロンプトエンジニアリングは、理論を学ぶだけでなく、実際に手を動かして試行錯誤すると身につくスキルです。最初から難しく考える必要はありません。まずは日々の業務やちょっとした調べ物から、AIとの対話を始めてみてください。
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